第5回 米国連邦とオレゴン州の源泉徴収税制(その一)
米国連邦の源泉徴収税制
「W-4」の徴求
従業員に給与・賃金を支給する前に雇用者はまず、従業員からW-4を徴求しなければなりません。W-4には源泉徴収額算定のために必要な従業員個々の情報が記されています。雇用者はこれを人事ファイルとして保管します。
現金で、またはその他の形で雇用車が支給した賃金給与、有給休暇、賞与、手数料、福利厚生などは、原則として連邦雇用税の課税対象となり、雇用者は源泉徴収することが義務付けられています。
特に福利厚生(フリンジベネフィット)供与については、例外項目が細かく規定されており、これらは後述の「米国の福利厚生税制」で説明いたします。
一般的な賃金給与所得以外で、特に規定されている主な特別報酬を若干説明します。
(1) ゴールデンパラシュート(Golden Parachutes)
ゴールデンパラシュートとは、企業と幹部社員との間で、企業の経営権や持分の変更があった場合、当該幹部社員に一定の金額を支払う契約をいいます。ゴールデンパラシュートは一種の退職金に相当し、この支払いは雇用税の対処所得となりますし、従って雇用者は源泉徴収の義務があります。
しかし企業は、契約を超える金額または過去5年間の平均報酬の3倍を超える支払いをした場合、これを超過支払金額部分については損金参入することができず、かつ20%の超過税をさらに源泉徴収しなければなりません。
(2)無利息または低利社内貸付金(Interest-Free and Below-Market-Interest-Rate Loans)
雇用者が従業員に対し、連邦適用金利(Applicable Federal Rate = AFR)を下回る金利で1万ドルを超える社内貸付金を許容した時、金利差に相当する利息額は従業員への追加報酬(Additional Compensation)とみなされます。もし貸付金の目的の一つが税回避のためであれば、1万ドル以下についても本ルールが適用されます。
追加報酬の場合、FICA、失業保険税など雇用税の源泉徴収が必要ですが、連邦所得税の源泉徴収の必要はありません。もちろんW-2に含めなければなりません。
(3)非適格退職年金制度(Nonqualified Deferred Compensation Plans)
非適格退職年金制度に対する企業の拠出金は、FICAや失業保険税の対象となりますが、連邦所得税は、年金支給が始まるまで繰り延べられます。
オレゴン州の源泉徴収税制
オレゴン州の源泉徴収税制は次の三つの柱から成り立っています。
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すべてのオレゴン州の雇用者は、給与支給時に給与からオレゴン州の所得税を源泉徴収する義務があります。
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源泉徴収税の納税は雇用者が行い、納税期限は連邦所得税及びFICAと同じです。
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すべてのオレゴン州の雇用者は、納税に加え、納税申告書を提出しなければなりません。
「雇用者」とは?
オレゴン州法によれば、「雇用者」とは、従業員として役務を提供する者を擁する法人または個人をいいます。雇用者は通常、労働のための場所と器材を提供しており、従業員を解雇する権利があります。
さらに具体的に敷衍すれば、
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雇用者は、従業員に労働の指揮監督を行います。
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雇用者のオフィサー、メンバーまたは従業員は、源泉徴収税法を遵守する義務があります。
オレゴン州の雇用者又はオレゴン州で事業を行っている法人で、オレゴン州民を雇用し賃金給与を支給している場合、たとえオレゴン州外で役務を提供した対価であっても、すべての支払われた賃金給与から源泉徴収をしなければなりません。
オレゴン州民でない場合でも、オレゴン州内での役務の対価はすべて源泉徴収の対象になります。すなわち、他州の住民がオレゴン州内で営業活動を行い、この役務で得た賃金給与は、オレゴン州の源泉徴収の対象になります。しかし、オレゴン州外での役務の提供部分については、オレゴン州では源泉徴収の対象とはなりません。
こうしたオレゴン州で源泉徴収の対象となった他州州民は、オレゴン州でオレゴン州非居住者として、オレゴン州の確定申告を義務付けられます。但し、オレゴン州の居住者非居住者に拘わらず、一雇用者から得たオレゴン州内の歴年の賃金所得が300ドル以下の場合は、源泉徴収が免除されます。
一方、連邦税法上の「雇用者」の定義も、オレゴン州の定義とほぼ同様です。連邦税法は、宗教法人、学校法人、慈善団体、政府団体など非課税法人に対して、昔は社会保障税の源泉徴収を免除していましたが、1984年以降一般事業法人と同様有税扱いになっており、源泉徴収の上、雇用者と折半で納税しています。
オレゴン州外の雇用者の場合
オレゴン州外の雇用者で、オレゴン州で役務を遂行する従業員がいない場合は、オレゴン州の源泉徴収をする必要はありませんが、オレゴン州民を雇用し賃金給与を支給した場合は、オレゴン州に雇用者の届け出をし、かつオレゴン州の源泉徴収をしなければなりません。
従業員とは?
「一般従業員」
雇用者の管理統括下で労務を遂行する者。一般従業員と従業員と看做されない「独立請負人(Independent Contractor)」との相違を認識しなければいけません。
「法定従業員(Statutory Employees)」
雇用契約はあるものの、一般従業員ではない為,原則として所得税の源泉徴収義務はないが,社会保障税や失業保険税は源泉徴収される。例えば,出来高払いの運転手,生命保険販売員,ホームワーカー,外回り販売員などで、細かく規定されています。
リアルターは法定従業員ではなく,自家営業(Self-Employed)と看做されます。
源泉徴収の対象となる賃金給与
オレゴン州に於ける源泉徴収対象賃金給与とは、次のものをいいます。
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給与(Salaries)
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歩合報酬(Commissions)
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ボーナス(Bonuses)
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賃金(Wages)
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フィー(Fees)
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その他の従業員として提供した個人の役務の対価
雇用者としては、従業員に与えたすべての財貨・役務が課税対象になります。これらには、商品、株式、社債、社宅、生活補助金、又は従業員の役務の対価とみなされるすべてが含まれます。但し、雇用者の都合による食住関連費用は課税の対象とはなりません。一方、家族の間でも通常の雇用関係があれば、源泉徴収の義務が生じます。
立替経費は?
従業員が立て替えた経費を雇用者が補填支給した場合は、源泉徴収の対象とはなりませんが、給与と一緒に支払う場合は、はっきりと区別しなければなりません。また、すべて実費精算の形でなければなりません。
IRA・年金プラン等からの引き出しは?
IRAや各種年金プランからの引き出しの場合も、雇用者は源泉徴収を義務付けられています。しかし、従業員は賃金でない限り、源泉徴収の可否を選択することができます。この場合、個人(受取人)は雇用者(支払人)にオレゴン州源泉徴収免除のため、フォーム「W-4P」を提出しなければなりません。雇用者は賃金と同様の取り扱いをし、オレゴン州歳入局(ODR)の源泉徴収表をつかうか、又は8%の税率で源泉徴収税額を算出し、歴年年度末に受取人個人宛てにフォーム「1099R」を発行しなければなりません。
源泉徴収の対象とならない所得
特定の労働又は役務提供に対する対価に対しては、源泉徴収義務が免除されていますが、オレゴン州では殆どの賃金所得に対して源泉徴収が義務付けられていますので、十分注意する必要があります。
源泉徴収が免除されている対価の支払いとは、以下に列挙されたものをいいます。
A. 家政婦。W-2、Copy 1に“DOMESTIC” と明記されていなければなりません。家政婦と従業員が兼務の場合は、免除されませ
ん。
B. 雇用者の通常業務外の臨時作業。但し、業務外であっても社宅の建築など相当量の労働に従事する場合は源泉徴収しなければ
なりません。
C. 臨時雇用した森林消防隊員。
D. 連邦税が免除されている従業員信託。
E. 差し押えを免除されている船員。
F. 兵役従事者。
G. オレゴン源泉所得が50%以下のオレゴン州非居住航空会社従業員。
H. 州際ビジネスに従事するオレゴン非居住従業員。
I. 不動産売買斡旋従事者。リアルターは自営業者として取り扱われるが、オレゴン州税法上、特定不動産ブローカーと従業員で はない旨の契約があることが必要です。
J. 消費材直接販売従事者。
K. 一雇用者からの年間所得が300ドル未満の季節農業労働者。300ドル以上の場合は、すべての所得金額に対し、源泉徴収
が義務付けられます。雇用者は免除に拘わらず総賃金から一律2%の源泉徴収をする事を選択することができます。
L. 牧師。
M. チップ。
N. 401(k)拠出金。
O. 独立請負人。オレゴン州に於ける「独立請負人」とは、次の8つの基準のすべてに合致していなければなりません。
1. 役務提供先の指揮管轄下にないこと。
2. 事業の登録又はライセンスを所有していること。
3. 役務遂行のための道具や機器を所有してること。
4. 役務を遂行する者の人事権を有していないこと。
5. 役務の対価が一定の進行基準で支払われるか、年間又は一定期間のリテイナー方式 で支払われること。
6. 必要とする事業登録した者。
7. 前年度に独立請負人として確定申告をした者。
8. 独立法人であり、次の四項目以上に該当する者。
* 役務が主として自宅とは別の場所で遂行されるか自宅の特定の場所で遂行されていること。
* 広告宣伝や名刺を常時携帯しているか、業界団体に加盟していること。
* ビジネス専用電話線を有していること。
* 役務提供契約が締結されていること。
* 一年以内で少なくとも二人以上の法人個人に役務が提供されていること。
* 労災又は契約履行責任を有していること。